書評日:2006.3.3(金)
ななつのこ
表紙に惹かれて手にした本「ななつのこ」に、ぞっこん惚れ込んだ主人公「駒子」は、その本の作者へ物語にリンクした小さな謎を盛り込んだファンレターを送ったところ…。
ほのぼのとした日常ミステリー。
日常に潜む小さな小さなミステリー。それは人によってはミステリーとは言えないものかもしれないけれども、当人にとってはミステリーもしくは謎と呼べるものなのでしょう。
北村薫さんと同じような、「些細な出来事を追求していく物語」が得意な作者と聞いて手にした作品です。
あらすじを見て読みたいと思った作品「ささらさや」が売ってなかったので、こちらを購入しました。
作中、主人公「駒子」の日常と「ななつのこ」の本の中の物語が語られていくので、1つの作品を読んで2つの作品を読んだ気分になれます。読み始めは少し驚いたのですが、すぐに慣れました。
取り扱うものが取り扱うものだけに、引き込む力はものすごく微弱なんですが、物語に通じる淡々とした暖かさが心地よく、物語と同じようなテンポでページをめくることにすがすがしさを感じてしまいました。
7つの話一つ一つに謎が詰まっているのですが、7つの話全体にも謎が盛り込んであります。そのことに作品を読み終わるまで気づかなかった僕は、読後に思わずほくそ笑んでしまいました。
恩田陸さんや宮部みゆきさんのミステリーだとそうだったのか!という目が覚めるような気づきがあるのですが、この作品はそういった大きなどんでん返しや種明かしがなくとも、面白いと感じる素敵な作品でした。
次は「ささらさや」を読んでみたいと思います。
考察
作品を読むまで、「ななつのこ」が「かーらーすーなぜなくのー、からすはやーまーにー」という歌のタイトルだと知りませんでした。こういった馴染みのあることなのに分かっていなかったことを知れるのも読書の醍醐味なのかもしれません。
なお、私はこの歌が「かーらーすーなぜなくのー、からすのかってでしょー」と言う風に誤って覚えておりました。子供の頃の変え歌って大人になっても修正されずに残ってしまうものなのですね…。
加納朋子さんは数年前、白血病に罹ってしまい大変な思いをされたようです。その時のお話を綴った作品に「無菌病棟より愛をこめて」というものがあるのですが、この話はよくある闘病ドキュメントのお涙頂戴モノや悲壮感に溢れたものではなく、小説同様「加納朋子テイスト」で書かれており、この人のストーリーテリングの上手さが感じられる作品でした。
以前にもまして加納朋子さんのことを尊敬しましたし、作品をもっと読み続けていきたいと思いました。長生きして欲しい作家さんです。