結婚することも育休をとることも夢にも思わなかったあの頃

大学時代に書いていたブログ記事をリマスター及び考察しながら載せていこうと思います。恥ずかしい思い出や今より稚拙な表現等ございますが、ご容赦ください。

人間失格 / 太宰治 著

 

書評日:2005.12.22(木)

 

 

人間失格

 

「はしがき」と「あとがき」そして3つの手記とで構成されている作品。太宰の中で最も読まれた作品

 

僕が太宰治という作者にはまったのは高3で読み始めはこの作品だった。

 

人間失格」の「葉蔵」なんてまさに自分じゃないかってああ、ここにもお道化を演じてる人がいますよって本の中に語りかける。心の内への自己主張。

 

自分の感じていたことを文として表現してくれる作者に出会えた。嬉しいという感情ではなく自分はここにあったという探していた「なにか」を見つけたときの心がはっとする感覚。

 

大学2年の末に閉鎖しちゃったホームページはかなり太宰色に染まっていたと思います。

 

最近は専ら今を生きる作者達の本を読んでいたから、太宰の作品に触れていなかったのだけれども、本棚を整理していたら見つけてしまいまして、ぱらぱらぱらぱらとぱらぱらぱらぱらと

 

……

 

横道に反れて太宰を語ると私情がかなり絡んで長くなりそうなので「人間失格」に戻ります。

 

この作品を書いた後、太宰は玉川上水に入水してこの世を去ってしまうわけです。この作品は太宰の作品であり遺書でもあり、そして太宰治が存在したという証なのです。この作品があったからこそ、太宰は現代においてその名をとどろかせる存在になり得たのです。

 

斜陽と比べて

太宰の有名な著作に「斜陽」という作品があります。「斜陽」は、太宰の言語感覚が巧に発揮された傑作でした。当時の若者の間で「斜陽族」という言葉が流行するほど大きな影響力を発揮した作品です。

 

ですが、この作品だけでは太宰が現代においてまで影響力を持つ存在にはなりえなかったでしょう。なぜなら太宰特有の自嘲表現、そして心の闇が主人公が女性であるが故にかひかえめなのです。

 

太宰の特徴は作中人物が思いっきり自分を嘲る、もしくは弱さを吐露し、それが作者である太宰の本音を代言するところにあります。なにかがおかしい、何かが違うという想い。しかし、太宰自身の強者になりたくないという想いと「優しさ」故にそれに気づかぬふりをして、生活をしていかなくてはならないという苦痛。太宰の文からにじみ出るそれはきれいな語りの文体から痛いほどに染みわたってくるのです。

 

それが、「斜陽」中では「ひとつの物語」を創り、それを語ろうとしているので自分の言葉は含めつつもひかえめにし、主人公の女性の感情を吐露しているのです。登場人物が太宰の器の中で動いているのではなく太宰が登場人物の器の中で動いているのです。

 

それゆえ、いつも自分の気持ちを入れすぎてこんがらがって終わっていた太宰作品が、「斜陽」では極めてスマートに最初から最後まできれいな文のままに終わっているのです。

 

おそらく、この「斜陽」でどのように作品をはじめから最後までまとめ上げるかについて、太宰の中で一つの答えが出たのだと思います。しかし、この作品は太宰の言わんとするところが抑えられている。「斜陽」だけでは太宰がどんな思考、思想を持った人間かはわかりにくい。

 

ゆえに、「人間失格」がなかったら「太宰治」という作者よりも「斜陽」という作品の方が残ったことでしょう。

 

まとめ

人間失格」は太宰自身のことを綴った半ノンフィクション作品です。自分のことを克明に主人公に語らせることにより、「人間 太宰治」が強烈に読者の頭に焼きついていくのです。この作品は斜陽で培われた構成と、太宰特有のとても読みやすい文体で書かれており重い内容であるにも関わらず、すらすらと読むことができます。

 

非常に内省的でネガティブな感情を持った「太宰治」が「人間失格」という強烈な題名とセットとなり認知されまた、入水自殺により、世に衝撃を与え、この作品は遺書に位置づけられることとなり、その時点で「太宰治」の名を現世までとどろかせることを確約したと言っても過言ではないかもしれません。

 

内容の壮絶さ、そして日本人の共感レベルは、作品発表から年を経た今でも存分に味わえるものだと思います。日常生活を過ごす上で感じる違和感、虚無感などの描写が実に巧で引き込まれます。一度も読んだことのない人は是非読んでみてください。

 

人間 失格

 

初読時から文中に出てくるこの言葉はとてつもなく重く、そしてそれから目が離せないほどに存在感のあるものでした。どうしてこの言葉が文中で使われるのか、どのようにして使われるのかなぜ、タイトルがこれなのか。すべてはこの作品を読めばわかります。

 

また、太宰はこの作品を書く前に、「人間失格」の内容に関係した作品を書いています。「晩年」に収められている「思い出」と「道化の華」という作品です。「人間失格」を読まれる方は併せて読んでみることをおすすめします。

 

考察

凄まじく力が入っていますね…。大学3年生ぐらいまで、私は通学時間(電車で片道35分)を使って読書をしていました。読むのは主に太宰治夏目漱石でした。片道20~30ページぐらいしか読めなかったのと、何回も同じ作品を読んでいたので、読書作品数はそう多くなかったと記憶しています。

 

この作品については、高校3年生の受験期に、母と参考書を購入しに行ったら、ワゴンセールに「大活字版(文字が大きい。老眼の人向け?)」のものが安く売っていて、何故か母が積極的に私に買ってくれようとして、その提案を受け入れたのが最初の出会いでした。受験期に読むものじゃないと思うんだけど、何を思ったんだ、母は。

 

今はKindleで無料で読めるんですね。凄い時代になったものだ。