書評日:2006.11.13(月)
月の裏側
九州の水郷都市で失踪事件が3件立て続けに起こった。不可解なことには、失踪した人は皆、失踪中の記憶を無くして家に戻ってきた。事件に興味を持った元大学教授の協一郎は教え子の多聞と娘の藍子を呼び寄せ調査を開始するが…。
架空の水郷都市を舞台に展開する、ミステリー。ホラーテイストなのだけど、ホラーではない。題名から、ピンク・フロイトの「狂気」を連想して読んでいたらすっごくぞくぞくした物語。
見えざる敵に為す術もなく、一体どう進んでいくのだろう?と、厚さもあったのでもの凄く楽しみに読み進めていったのですが、裏切られに裏切られ、中間あたりでわくわく感は消え去り…。良くも悪くも恩田陸作品でした。
謎が明らかにならないと気がすまない人にとって恩田陸作品はストレスのたまる作品だと思います。
恩田氏はワクワクする設定づくりがものすごく上手な作家さんなのですが、その設定に収拾をつけるのがあまり上手でない作家さんなのです。
うわー、この物語最後はどんな方向に進むのだろう!?と、残りのページもたっぷりあるしと、期待させられて、こうくるか!!と驚かされたと思ったら、あれ?終わりなの!?
それが恩田作品。
この作品は、一応話としてはまとまるのですが、期待した形とはまったく別の形で完結するので、厚さの割に肩すかしをくらった感じがしました。
中盤までは登場人物の緊張が読み手にも伝わるぐらいに、手に汗握るような展開なのですが、中盤以降、その緊張を無意味にしてしまうような展開に変わって行ってしまい、結局何を伝えたかったのか良く分からなくなってしまいました。
おそらく、期待が裏切られたせいもあったのでしょうが、1読では全てを汲み取ることができませんでした。
謎は謎のままが美しいし、一人一人に考えさせてくれる場所を残してくれるからいい。という方はこの作品を含め、恩田作品を全部読み進められるでしょう。
時間が経ったら、新たな気持ちでもう一度読み直してみようと思います。
考察
そしてもう一度読み直すことなく今日まで至ります。手放してしまったし。
物凄く分厚い本だったのですが、結末が肩透かしで「ここまで厚くする必要があったのかい!」とツッコみたくなってしまった作品でした。
この物語に登場する「塚崎多聞」は「不連続の世界」で再登場しました。この不連続の世界のほうが面白かったような。確か短編集だったと思います。