書評日:2006.11.7(火)
手紙
弟・直貴の大学受験の費用捻出に困っていた兄・剛志は、かつて引っ越しの仕事で行ったことのある一人暮らしの老婆の住む家に強盗に入る。しかし不覚にも老婆に見つかってしまい、気が動転した剛志は老婆を…。犯罪者の兄を持つこととなった直貴のその後の歩みを描いた作品。
映画、上映してますね。映画館で見ることになるか、はたまたDVDでみることになるか。
テーマは差別。犯罪加害者の身内となってしまった主人公は自らは犯罪に手を染めたわけではないが、犯罪加害者の身内ということで差別を受けることになります。
人は○○の××って言う称号が好きでなにかにつけ人を差別ないし区別します。
その○○の部分が犯罪者だったら…。。その人に対して自分はどう接するでしょうか。という問題を読者に投げかけつつ、物語は進行していきます。
リアルでそういう人物と職場や学校で一緒になったとき、自分は避けてしまうのか、それともつきあっていこうとするのか100%断言できません。その行動が悪なのか、偽善なのか現代社会では誰にも判断はできないのです。
決して道徳を重んじる本でもないし、この本があるから差別はなくなるわけじゃない。それでも、ありのままの現実を描こうと東野氏が苦心された作品だと思います。
すごく違和感があったのは剛志の馬鹿具合。
大学に入ろうとするならば色々な手段があるわけで、たとえ本当に馬鹿で調べる手段がなかったとしても、意地を張って安直にも強盗とは…。。
そういう犯罪があるのは事実ですけどね。二人兄弟なんだからもうちょっと分別があると思うんですけど。仕事に関しても、体が使えなくなったから稼げないと安直に考えるのではなく、何が何でも稼がなきゃって仕事を探すと思うのですが…。それでも見つからなかったってことなんでしょうけど。
と、始まりの部分のごたごたに違和感を感じたものの、それ以降は面白かったです。決して明るい話ではないのだけれど先が読みたくなってしまう。
あとは、バンドの話とかも、物事がものすごく簡単に運びすぎて、首をひねってしまいました。(それで終わりで落胆させるという手法だと思うのですが)
いや、あれじゃ先で確かにああなるんでしょうが。(ネタバレせぬようにぼやかし)
じーんと来たのは中盤。東野氏の作品は中盤に盛り上がらせるのが多いですよね?エピローグ的な部分を濃く方だよなぁといつも感心させられるのですが。
映画を見る前に、是非原作を♪
考察
事の発端が私にはイマイチ理解できず(というのが馬鹿具合の話なんだけど)、最初は物語に入り込めなかったのですが、中盤から後半にかけては吸い込まれるように読んでいけたお話でした。
映画版も見た気がするのですが、あまり印象に残らなかったような…。やはり冒頭の部分のリアリティが欠けているからなのか(そこばかり…)、私の想像力が欠如しているのか。
これにて書評最終回でございます。これまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。明日からは膨大な『映像作品観賞記』が始まるのでお楽しみに?