結婚することも育休をとることも夢にも思わなかったあの頃

大学時代に書いていたブログ記事をリマスター及び考察しながら載せていこうと思います。恥ずかしい思い出や今より稚拙な表現等ございますが、ご容赦ください。

秘密 / 東野圭吾 著

書評日:2006.8.6(日)

 

 

秘密

妻と娘を乗せたスキー場行きのバスが転落した。妻は亡くなり、娘は意識不明。一度に愛するものを失った主人公、杉田平介は途方に暮れる。植物人間になる可能性があると言われていた娘は、奇跡的に意識を取り戻したが…。

 

広末涼子が娘役を演じた映画「秘密」の原作。

 

読み始めて気付いた。この作品が原作となった映画を見たことがあると。高校2年か3年の時、レンタルショップで親が借りてきて観たのだが、非常に気まずかった覚えがある。そして、非常に悲しくなった記憶がある。

 

非現実的な設定を、現実的な描写で。この作者は、感覚的に表現するより、論理的なものの説明が得意である。

 

娘、藻奈美の身に起きたことを、非現実的なもの(フィクション)としつつも、脳医学の分野の病気として例を掲示しつつ、いかにも「ありうること」として表現する。

 

治療法、治癒例、原因、その他ただその事件がきっかけで起こったこととして終わらせないところで、物語に現実味を持たせている。

 

数冊彼の著書を読んだが、東野氏は非現実的な設定を、論理的に説明するのが得意と見える。そしてそれが、彼の作品の武器となり、特徴となっている。

 

「感覚的なもの」でイメージから現実味を出す作家もいるが(北村薫加納朋子など)、東野圭吾は、論理的に現実味を出す作家なのだろう。それでいて、論理的に説明されても退屈にならない書き方をする作家だ。

 

ともすれば、論理的な描写というものは押しつけがましかったり、イメージを限定されてしまったりするが、彼の場合は嫌らしさがなく(キザっぽさはあるが)非常に読みやすい。気がつくとうまい説明に思わずうなっている自分がいる。

 

話はそれてしまったが、非現実的な設定に、現実的な世界での年月の流れを描いた今作は、限りなく現実に即していて、本の世界に入り込めてしまう物語なのだ。

 

読んでいくごとに微笑ましいシーンが、後々に涙で目が潤むぐらいに思い出されたり、悲しいシーンが、走馬燈のように連続して思い出されたり、一つの作品なのに、思い出が蓄積されていく。

 

結末は、どのような方向に進むか読んでいけばいくほどにどうなるか予想はついてくるのだけれども、読み進める手を止めることができないほどに吸い込まれていく物語です。

 

この作品を、読めてよかった。

 

考察

文句なしに面白い物語なんですが、読むのに勇気がいるというか、辛い気持ちを味わうことになると分かっているので再読に至らない物語でした。

 

 

映画版も良かったですが、本編にも書いている通り、親と観るものじゃなかったですね(笑)。20年近く前の作品なのか…。