2009.7.26 社会人3年目
それは平日の帰宅電車の中での出来事であった。私は座席に座り、いつものように文庫本を読んでいた。左手小指でページを開き、親指を遊ばせながらページを捲るスタイルで。
かぜおこし
乗車してしばらくはいつものペースで読書ができていたのだが、途中のとある駅を過ぎてから、私が手に持っていた文庫本が風に遊ばれるようになった。
親指でページを捲る準備をすると、風によって捲られてしまうのである。非道いときには2ページほど捲られる。
其の時分、読んでいた部分は非常に面白く、とても集中して読んでいたので、突然起きだした風に集中を解かれて困惑した私は、その風の起点を辿ることにし、探すまでもなく私は即座に答えに辿り着いた。
隣席の人
とある途中駅で乗車し、私の隣に座ったスーツ姿の男が風の起点であった。
彼は着席するとすぐに、手に持っていた週間少年漫画雑誌を膝に乗せ、黙々と読み始めていたのである。彼がその週間少年漫画雑誌のページを捲るたびに、風が巻き起こっていたのだ。
彼は膝の上の週間少年漫画雑誌を、左右の膝に表裏表紙をくっつけるほどに開いており、ページを捲るときは勢いよく右手で均し、中途半端なページの開きを許さないスタイルであった。
このページ均しの際に風が起こっていたのであった。すさまじい職人芸である。それに気づいたら、今度は「シャー」っとページを均すときの音も気になりだした。もはや読書どころではない。
こうして原因が判明したのだが、防ぐ方法はなさそうである。下車駅まではあと数分だったのであるが、風と音に気分が削がれた私は、読書を中断してipodを起動し、音楽に集中することにした。
自分で実験
帰宅後、雑誌のようなもので彼のようにページを捲ってみたが、上手く風を起こすことができなかった。どうやらあの捲り方には鍛錬が必要らしい。彼は職人だったのだ。きっと何年も鍛錬を積んだに違いない。
その技術を余すことなく隣席の人に見せつけ、後継者を探しているに違いない。
考察
本当にすごかったんです。一度きりの出会いでしたが、この人以上の「かぜおこし」職人には出会ったことはありません。そのぐらい記憶に残っています。もう笑いたくなっちゃうぐらいだったもので。
最近は文庫本を読むことが殆どなくなった(kindleで読んでいる)ので、「かぜおこし」で邪魔されることはなくなりました。あの時代特有の稀有なできごとだったのかもしれませんね。それもまた面白いなと。