結婚することも育休をとることも夢にも思わなかったあの頃

大学時代に書いていたブログ記事をリマスター及び考察しながら載せていこうと思います。恥ずかしい思い出や今より稚拙な表現等ございますが、ご容赦ください。

ロミオとロミオは永遠に / 恩田陸 著

書評日:2006.10.15(日)

 

 

ロミオとロミオは永遠に

近未来。新地球へと人類が移住した後の旧地球では、日本人だけが化学物質や産業廃棄物の処理のために残されていた。人々の唯一の希望は身内を「大東京学園」の卒業総代にすることであった。卒業総代となれば、自身のエリートの道はもちろん、その家族の生活も保障されるのである。

 

家族や学校の先生の期待を一身に受け、「大東京学園」に入学したアキラは入学試験をレコード記録で突破した美少年シゲルと出会い、数々の苦難を共にする。

 

やがてアキラは「大東京学園」での生活に疑問を抱くようになり、数年前に入学した兄が「大東京学園」を脱走したことを知り…。。

 

映画「大脱走」へのオマージュとしてライトノベルテイストで作者が書き上げた近未来学園モノSF長編。イメージとしては「20世紀少年」+「大脱走」+「ゲーム」のような物語で本の厚さ(およそ800ページ)の割にあっという間に読めてしまう。

 

もともと「ショーシャンクの空に」や「大脱走」のような物語が好きなのでハマれました。登場人物の細かい描写よりも、世界観や流れ重視の物語。恩田氏が描く「いつもの」少年を一連の流れに乗せて動かしていく。

 

ゆえに、登場人物について掘り下げることは少ないが、うまく『流れていく』物語である。

 

この人物の薄っぺらさがいい方向に作用していて、「大東京学園」の仕組みについて解明されていくテンポを妨げない。変にアキラやシゲル等主要人物に感情移入しなくてすむし、「どうなっているのか、どうなるのか」という好奇心を未消化のまま、焦らされないのが好印象。

 

恩田氏はとてもいい発想を物語に取り入れるのだけれど、それが最後の方になって収拾がつかなくなって放り投げる物語が多いだけに不安だったのだが、ラストまでなんとか持ちこたえてくれて(ちょっぴり途中で破綻しかけたけど)、一応話としてはまとまった。

 

思わずほくそえんでしまう引用やオマージュもあり、巻末にその引用部分に関する辞書もあるため、物語以外の所でも楽しませてもらった。

 

何も考えずに「おもしろい」作品を求めるならコレはオススメ。登場人物の性格が偏っている分全編モロSFとして楽しめます。

 

考察

昔のブログに残っていた恩田陸さんの著作の感想はこれにておしまいになります。最後を飾る?に相応しい、私の大好きな作品です。この本は手放さずに取っておいてあります。いつ読み直すかはわからないけれど…。

 

本編で言及している通り「大脱走」へのオマージュが多いのですが、そこにSF的要素やトンデモ要素が織り交ぜられ、馬鹿馬鹿しさが突き抜けてすぎているのがいい。下手にリアリティを追求してしまうと、「ひっかかり」を覚えてしまうのだけど、ここまで突き抜けられると引っかかるものがなく、エンターテイメントとして楽しめてしまいます。

 

恩田陸氏の作品の中で…という枠をもうけなくても、文句なしで面白かった作品。これまで読んできた本の中で面白かったものは?と問われたら必ず答えている作品です。書毒から10年、再読から5年ぐらい経ってるけど、今後も同じように答え続けられるのではないか?と思っている作品。是非、ご一読あれ!