書評日:2006.8.6(日)
だれかのいとしいひと
男女の様々な形の恋模様を描いた短編集。全8編。淡々と…淡々としている。
ファンタジーのようにワクワクしたり、ミステリーのように驚かされたりすることはなく、サスペンスのように恐くなって読んでいる最中に後ろを振り返るような作品でもない。
けれども1編1編に「このことをいいたかったんだ。」と、はっとさせられる文がある。
すごく感覚的なことなのだけれども、理想を語るようなことなのだけれども、とても大切なこと。とても大切だと思えること。
短編で淡々としていつつも、心に残った作品です。
特に心に残った短編紹介
いくつか心に残るものがあったのでご紹介いたします。
バーベキュー日和
親友の恋人を好きになってしまう女の子の物語。この説明だと、ものすごく悪女な感じをイメージしてしまうけれども、この女の子は「好き」という感情の捉え方が、特異な女の子なのです。
彼女の最後に残す言葉が理想論なんだけれども、胸に突き刺さるぐらい切ないもので、ネタバレしたくなってしまうけれども、実際に読んで味わってもらいたいので書きませんよ!
誕生日休暇
誕生日休暇を一人でハワイで過ごさなくてはいけなくなった女性の物語。ハワイに自らの意志で来たのではないために、非常に退屈な日々を過ごす。そして八つ当たりのような形で、いろいろなものを恨めしく思ってしまう。しかし、ある晩の一人の男性との出会いが、彼女の心に変化をもたらすことになる。
全く期待していない人からのある一言によって、世界がまるで変わったように見えてしまう。そんなことありませんか?普段じゃあり得ない。でも、非日常の中では予想不可能なことが起こっていいと思うんです。
総評
恋について感覚的なものを得ることができる作品です。1編1編が短くてすぐ読めてしまうのに、心に残るところがあるのがすごい。
だれかを好きになること、だれかに好きになってもらうこと、考えたってできるものじゃなくてこの部分だけは、感覚的なものであっていいと思うんです。
考察
「好き」という感情の難解さは30を過ぎた今となっては理解したくないものの一つになりましたが、当時の私はこれを解き明かそうと躍起になっていた気がします。
躍起になっている時ほど、遠く離れていくもので、それについて考えなくなったら自然と身の回りに溢れてくるのは何故なんでしょうね。あれは不思議です。
しかし、それはそれで求めているものと全く違うものだということが分かり、苦悩することもありました。もはやどうでもいいことなので本当にどうでもいいのですが。