書評日:2006.1.21(土)
みんなで夜歩く。たったそれだけのことなのにね。どうして、それだけのことがこんなに特別なんだろうね。(作中より)
夜のピクニック
第2回本屋大賞受賞第26回吉川英治文学新人賞受賞
『本の雑誌』が選ぶ2004年度ベスト10
2006年映画公開
などなど形容句がたくさん並ぶ恩田陸の作品。
実は恩田作品のファンで、文庫になってるものは結構な数読みました。物語の核を担う謎に毎度惹かれ、時間を忘れて読み耽ってしまうほどに魅力ある作品群。いつのまにか本棚には「恩田陸」の名前が並んでいました。
「夜のピクニック」はある学園の中の行事「歩行祭」をテーマにした物語です。一日通して80キロ歩く、年に一度の行事「歩行祭」での出来事が二人の主人公によって語られていきます。
恩田さんは読者に学生時代を思い起こさせる描写が上手く、学園もので数々の名作を生みだしてきました。(「六番目の小夜子」「麦の海に沈む果実」など)
読前、今作はその「恩田学園作品の魅力を凝縮したもの」と考えていましたが、読後は作品に対する印象は全く違うものになりました。
言うなれば恩田陸流青春ドラマ小説といった感じでしょうか
今まで物語の核を担ってきた謎は、物語に彩りを添えるエッセンスのような役割に徹し、この年齢(高校時代)特有の青臭さや苦悩若さゆえに感じるもどかしさ、心の動きなど、総じて青春と呼べるものを主体にして物語は進行していきます。
大どんでん返しがなく、あらかじめ物語の大まかな流れが読める物語ですが、薄っぺらい内容になっていないところが高評価される要因でしょうか。
これまでの恩田作品では謎がすべて解かれぬままに終わったり、物語の最後に謎を残すことが多いことから「すべてが明らかにならずに中途半端」「読者に考える余地を与えてくれる」(前者には男性に多く、後者には女性が多い)といった意見が生まれてきました。
しかし、今作ではその謎がエッセンスの役割に徹しており、とてもやんわりとした謎が多く、すべての謎が物語が進むごとに丁寧に解かれていき、すべての人が読後にすっきりできる内容に仕上がっています。
それゆえ、恩田ミステリー慣れした読者にとっては、少し物足りない作品なのかも知れませんが。
読んで損することは無い作品だと思います。心情描写と風景描写がしっかりしてますし、342ページありますが、中だるみもなくサクサク読めてしまうので苦にならずに読破できます。
青春の一ページを反芻したい方、この作品が気になっている方是非、一度御一読を。
考察
ただ歩くだけのイベントなのですが、それを小説にし、賞を受賞して、映像化されてしまうなんてよく考えると凄いことに思えます。作家って凄い。
この物語は2度読み返しましたが、読後の記憶がございません。記憶がないということはいつもの恩田作品よろしくモヤモヤしなかったということなのか、単に記憶が抜け落ちているのかは定かではありませんが。
機微がよく理解できなかった当時に比べれば、もう少し物語の登場人物の気持ちがわかるのかもしれません。年が離れてしまっているから、気持ちではなく世論との対話として読んでしまうのかもしれませんけれど。
映画版も見ました!